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2010年6月28日月曜日

3月のライオン

実家に帰ったら3月のライオンがあったので嬉々として読んだ。
これだけでも帰った甲斐があったというもの(自分で買って読むのとはワケが違います)

んー、将棋の漫画とは聞いてたけど基本は少女漫画なんでしょ?と思ってたが、これはちゃんとした将棋の漫画ですな。
むしろプロ棋士同士の心の動きとか生活感をこれくらい現実的に描いた漫画って今までなかった気がする。
それに加えて、プライベートにおいて複雑な事情をかかえた登場人物が多いこと、彼らの偶奇的な出会いによって始まっていく交流、香子と主人公のやや背徳的な関係、二階堂との(一方的)ライバル関係、ヒナちゃんと高橋くんとの普通に少女漫画的な恋愛模様などが自然に展開されていて楽しみが多い。

二階堂は将棋関係者なら誰でも、先崎の解説を読む前に故・村山聖9段がモデルであると分かる。
実際の村山はもっと人間的な葛藤に溢れていて終盤の強さは二階堂レベルじゃなく、
体の具合だってもっと悪かったはずだけど、それでも二階堂は村山を取り入れたことで魅力的なキャラクラーになっている。

村山は自分の病気が重いことを知っていて、なおかつ名人になるという目標を持っていたので、いい意味で将棋の上達に関して「のんびりする」ことを知らなかった。他のプロ棋士が将棋に対して怠慢になっているのを見ると許せなかったのは、怠慢さを自分に投影した場合に「こんなことじゃいかん」と思うのもあったかもしれないし、自分には時間がないのにおまえらにはあるという嫉妬もあったかもしれない。

いずれにしても二階堂が主人公の将棋を大盤解説していて「ほんとうに勝ちたいなら粘れ!もっと自分の将棋を大切にしてくれ」と言った時、もし村山のエピソードを知っている人が単行本の2巻を見たら、他人事を他人事と思わない村山の姿が二階堂にダブって見えただろう。それでも二階堂は決して可哀想キャラではなく、気遣いができてお金持ちの御曹司で絵を書くのがうまく三姉妹の末っ子にはトトロ扱いされている。

今までの将棋漫画だと、勝負事としての破壊性ばかりを極端にピックアップ・拡大していたような気がする。でも、例えばもともと温かい日常風景である料理の世界をミスター味っ子のようにピックアップすることはギャグになりえても、一部の人しか知らない世界をどう加工してみせたところで、一般の読者はそれが「加工されたものである」とすら気付けない。

とはいえ簡潔かつ正確に伝えられない特殊な事情はもちろんあるので、そういうのを可愛さで覆い隠しながら徐々に慣れさせようとしているところが少女漫画作家の面目躍如といった感じで感心する。特にプロ棋士にとって、3月のライオンは有り難い作品なんじゃないかと思う。